毎年冬になると
ボウルいっぱいの麹、
白濁した米の研ぎ汁にうるかした身欠にしん、
キャベツ、大根などが台所で
これから何かが始まるぞ。という雰囲気の中でひしめき合っていた。
それをばあちゃんが、一つ一つ丁寧に切り刻んで樽に放りこむ。
数日経って出来上がったにしん漬けは、子ども心になんともグロテスクで
おまけに魚の匂いまでしていて「これは食べ物じゃない」というおぞましさすら感じていた。
ばあちゃんも空に上り、月日は流れ、
にしん漬けが食べたい。と思うようになった。そういうお年頃になったのだろう。
食べたいだけではない。
自分で拵えたいとまで思うようになったのだ。
義理の母のにしん漬けが美味しいので
作り方を伝授してもらうことにした。
義母もまた料理上手の研究熱心な人で、
お願いしていたレシピにも、1行程ごとにアドバイスなどまで認められていて、
味を受け継ぐということの厳かさまで大袈裟ながら感じるほどの完成度であった。
早速、大量の野菜たちと格闘しながら4日後にやっと完成したにしん漬けを白飯にのっけて、
ばあちゃんの思い出ごと喰んだ。
塩味と、にしんの風味、糀から醸し出す甘味。
パリパリとした食感のキャベツに大根。
縁の下の力持ちの生姜の風味が、お米に合う。
合わないわけがない。
それをお味噌汁で流し込む。
一汁一菜。
ばあちゃん、私もこうやってご飯を食べるようになったよ。
余談ながら
にしん漬けの健康効果が凄まじいという研究結果にも
先人たちの知恵袋にあらためて敬意を表したい。
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#一汁一菜